一口に歯科医療といっても様々な分野の治療があります。虫歯を削って詰め物や被せ物をしたり、歯をきれいに見せる「審美歯科」、痛くなった歯の神経や歯の根にできた膿(うみ)の処理、入れ歯の作成や調整、歯の抜歯もあります。ブラッシング指導と共に、自分で自分の口の健康が維持できるようにする「予防歯科」という治療もあります。どれも多岐にわたって奥深く、高度な内容を含み、各々で専門家ができるほどです。これら色々な治療の中に「歯列矯正治療」があります。矯正治療では、あごの発育管理、食べるという運動を含めた顎機能の健全化、審美、口元や発音の改善等があげられ、それはそれで奥深いものです。
あなたが「自分で自分のお口を守りたい」「よい治療を受けたい」「納得できる治療を受けたい」「高度な医療を受けたい」「自分のお口は人より難しいようだ」と思うならば、それぞれの専門医や高度な知識をもつ実力のある先生のところに受診すべきでしょう。
ところで、あなたと同様、先生も泣いたり笑ったりする人間です。あなたとの相性もあるでしょう。一度受診し先生が時間をかけてよく話を聞いてくれるか、先生はどういう人か相性があうかどうか考えることも必要と思います。
歯並びが心配な時は、矯正専門医で、しかも気楽に相談でき、装置が壊れたり何かおかしいと感じた時も気軽に通える、何でも相談できる先生を選ぶことをお勧めします。
口は食べ物が入ると、反射的にもぐもぐ噛み始めます。それは飲み込む時の嚥下反射(えんげはんしゃ)と同じです。そして無意識に、硬い物は弾みを付けて噛み砕こうとし、軟らかい物は優しく噛みます。歯並びが悪く、例えば前歯が1本でも中に入っていて受け口で噛んでいると、そこに噛みごたえのあるイカ等を食べたら噛む力が強く集中して歯が欠けたり、歯をささえる歯茎が負けて歯槽膿漏(しそうのうろう)になったりします。またそこが痛いと感じると歯を守ろうとして無意識にその歯を避けるような逃避反射が起こり、あごを無理に動かし、筋肉痛が耳の辺りを中心に出てきたりします。それが偏頭痛、肩凝り、口が開かない等、顎関節症(がくかんせつしょう)の原因の一つになります。「あごの成長を考えて噛みごたえのある物を」というのは、悪い歯並びの方には適切ではありません。
「矯正治療中の歯磨きが心配」という声をよく聞きます。治療後のためにも、治療中は歯磨き指導が大切です。治療は月に1~2回の来院なので、虫歯や歯槽膿漏(しそうのうろう)に強い歯と口を育てる良い機会です。来院ごとに良くなる歯並びにあわせて歯磨き指導を受けていただきます。その後、専門のスタッフがPMTCという手段を用います。PMTCとは、歯磨きを全て患者さん本人にお任せするのではなく、私たちスタッフから積極的に虫歯にならないように管理していくというもので、専用の機械を使い、歯1本1本の清掃・消毒・フッ素塗布を行い、歯石を取り、歯本来の美しさと艶を再現し歯をガードするというものです。それが、歯垢や歯石の再付着防止・口臭予防にもなります。
来院する度にPMTCを行うことで、強い歯を育てていきます。歯は健康な歯茎でこそ動きが早く、治療期間も短縮できるからです。
歯磨きの不備や歯槽膿漏(しそうのうろう)に悩む方には、その調整のためだけに来院していただくこともあります。しかし通常、矯正治療後は年1回の定期検診になり、その時は自分にあったブラッシングが覚えられているので、自分で自分のお口が管理できるようになっています。
当院では心身の健康につながる「噛み合わせ」と「口元(顔貌)の改善」を目指しております。
治療期間を短縮する(歯がすばやく動く)には、まず適切な診断に基づく正しい治療方法の選択が挙げられますが、それと同時に歯と歯茎が健康であることが大切になります。虫歯や歯肉炎の歯茎では動きが鈍いのです。そのためにはお口の中を清掃、消毒、ガードするのと平行して、全身の健康を管理する栄養指導が重要になるのはお分かりのことと思います。(医食同源ということです)
お口の中の管理として具体的に行っているのが、前コラム「▼ 歯科矯正治療の開始時期」でご紹介したPMTCという術式です。当院では口腔内の健康を維持するため「予防歯科」に数年前から力を入れてきました。
お口の中を健康に保つ事ができれば、身体の健康維持にもつながってきます。逆に言えば身体が健康でなければ、お口の健康も保つ事はできません。また、せっかくおこなっているPMTCの効果を持続させるためには、心身共の健康管理の必要性も感じていました。その結果、食物の栄養面からのアシストも必要という考えに至ったのです。当院での治療が終わった後も、一生涯、自分自身でお口の中の管理と全身の健康維持ができるように栄養指導を行っています。
現代の生活では、精神的、肉体的にストレスを感じたり、不規則な生活に陥りやすいのですが、食事の面から考えて、自分自身でバランスを取りコントロールできるようになることで健康維持の一助となればと考えています。
矯正装置というと、お口につけるワイヤーしかないようにお思いの方が多いと思います。ところが、治療に用いる装置には色々なタイプがあり、それぞれに適した働き方があります。
歯列の不正は人によって様々です。八重歯の方、上あごが出ている方、受け口の方もいらっしゃいます。また、患者さんの年齢、あごの硬さ、指しゃぶりなどの 癖、ライフスタイルなども考えに入れなければいけません。そこで不正な歯列に合う最適な装置を治療ステップに応じて選んでお渡しすることになります。装置によっては、装着したときに多少違和感を感じることがあるかもしれませんが、その場合でも大多数の人はすぐに慣れて感じなくなってしまうようです。そして、その装置のタイプに応じて、メンテナンスを頻繁にしなければいけない場合と、2~3ヶ月に一度の来院で良い場合とがあります。
装置のタイプは、大きく分けて取り外し式と固定式の二種類があります。取り外し式のものは入れ歯のように自分で付けたりはずしたりできます。プラスチックに金属線が取り付けてあり、それを決められた時間、口の中に入れて使います。また頭にかぶる帽子のようなものもあります。固定式のものは、白い歯と同じ色のセラミックの器具で、それに金属線を通すことによって歯を動かします。
良い歯並びは、一生の自分の宝物となるのでがんばりましょう。
この他にもたくさんの装置があります。それらの中から、患者さんの症状にあった装置を選んで使用します。
(1)近年は食習慣がかなり変化してきていることもあり、検診でも、あごが十分成長していないお子さんを多く見受けます。成長不足で小さいあごに出てくる大人の歯は重なって生え、八重歯、乱ぐい歯等になってしまいます。また、指しゃぶりや爪を噛む癖があると、噛み合わせがゆがんでしまうこともあります。このままで成長すると、虫歯、歯槽膿漏(しそうのうろう)、歯の偏磨耗、破折等がおき、内臓への負担過重や精神的コンプレックス等、肉体的にも精神的にも悪影響が現れてきます。たかが歯並びとは言えません。
治療開始は早ければ早い程患者さんのあごの骨の成長を十分コントロールすることができ、理想に近づけることが容易になります。『早期発見・早期治療』が大切なのです。4~5歳でかかりつけの歯科医師に相談、または検診等で「心配」と言われたときは専門医に相談した方が良いでしょう。何歳から始めても矯正治療は十分可能です。
(2)治療に年齢制限はありません。
成人だから無理ということは無いのです。矯正治療は子供たちだけの治療ではありません。ただ、治しやすさや治療目標のレベルは変わってきます。
あごは身体の成長と関係しているといわれています。女の子では14才、男の子では16才でほぼ大人と変わらないあごに成長するようです。治療開始が遅ければ、できあがったあごの形に歯並びを調和させることになります。したがってあごが小さすぎると,歯を抜いて矯正治療をする可能性が増えてきます。
大人ではさらに歯槽膿漏(しそうのうろう)のコントロールや、親知らずの歯、顎関節症等に必要に応じて対処しています。
■ 4~12歳で始める場合…治療は2期に別れます。
主にあごの成長できるだけ正常な方向に誘導することが目的です。工事に例えると、あごという骨格の基礎工事をしっかり行うことです。その後、永久歯がすべて生え揃うまで経過観察になります。あごが正常に成長しているか、虫歯は無いか、歯茎は健康か等をチェックする時期になります。3~6ヶ月に一回です。
来院時に歯ブラシ指導や、歯の虫歯予防処置、清爽、研摩があります。
大人の歯が全て生え揃ってから始めます。
第1期治療で改善された骨格の上で、永久歯の噛み合わせの仕上げを行います。従ってこの第2期治療は簡単で,短い治療期間となります。
あごの骨という基礎に乗った歯という建物をしっかり建てることに例えられます。
あごの骨の基礎工事からしっかりできれば、噛み合わせは安定します。
■ 14歳以降で始める場合は、“歯の移動”が主な治療です。
第2期治療が中心となる治療になります。通常、大人の歯が全て生え揃っていますので、主に永久歯のかみ合わせを治療します。あごの骨格の治療もできる範囲で同時におこないます。装置は、その人のライフスタイルにより選択されます。